機関部(レシーバー)の仕上げ
レシーバーに施される彫刻は、銃のグレードによって大きく異なる部分となる。 高級銃であればある程手の込んだ、美術的価値の高い彫刻が彫られる。そのため高級銃の彫刻は全て職人さんの手により、 2ヶ月以上にわたって丁寧に彫られている。仕様によっては金を埋め込む彫金や、部分金メッキなども施される。 中級銃やスタンダードグレード銃は、ローラーまたは薬品によるエッチングで模様が付けられ、中級銃はその仕様により手彫りが加えられる。 それは全く同じ模様ながらも手彫りが加えられるだけで別物のように高級感が増し、とても不思議なモノである。
 彫刻を終えると、鉄の表面を窒素と反応させて表面硬度を高める窒化処理が施される。 最後にバフ磨きで艶を出し、トリガー、セーフティー、ハンマーなどを組み込んでレシーバーは完成する。

  銃床部(ストック)の仕上げ
荒磨きの状態で仕上げ工程に持ち込まれた木部は、さらに仕上げ磨きが施され、着色剤の混入された目止め剤で仕様に合わせた色に仕上げられていく。 その後も磨くと言うよりは擦りこみが繰り返される。下地処理を終えるとウレタン塗装と油仕上げに分けられ、 中間工程をいくつも経ながら仕上げを迎えるのだ。塗装が終わると木部の滑り止めとなるチェッカリングの工程に流れ、 NCマシンによって美しい溝が彫られる。ただし、チェッカリングの隅の部分は職人さんの手によって仕上げられることとなる。 なお高級銃に関しては、最初の断階から職人さんの持つ匠の技によって、一本いっぽん驚くほど正確で美しい溝が手彫りによって刻まれている。

各パーツが再び組み立てられ実射試験で息吹を与えられる

 銃身、レシーバー、ストックが最終組み立て工程で再び合流。引き金の重さ、銃身を4折る重さ、 エジェクターの作動同調など各所が規定の範囲で動くよう、微調整が繰り返される。トリガーの引く重さなどは錘を使って検査が実施されている。 たとえば引き金の重さが4〜4.5kgならば、4kgの錘では動作せず、4.5kgの錘で動作するよう調整していくのだが、その調整作業は簡単なものではない。 引き金の重さはシアーという部品でハンマーを引っかけているところの角度を微調整して決める。 しかも引き金は重さだけでなく、ストロークや切れ具合など調整箇所が多く、 それもほとんどシアーを削ったり磨いたりするだけの絶妙な作業で行われているのだ。銃の調整はヤスリと砥石とサンドペーパー、 そして技術と豊富なノウハウが必要なのである。
 ひと通りの組み立て調整を終えると、銃は試射場に運ばれて全銃に対して試射が行われる。試射は腔圧テストとパターンテストの2つ。 腔圧テストはトリプルチャージ相当の特別製の高圧弾を使い、各銃1発づつ発射する。限りなく100%の合格率とはいえ、 極めて稀に不合格品が発生するそうだが、その不良品率は10のマイナス6乗レベルとのこと。 もちろんこの厳しい試射があるからこそ高いレベルの銃のみが市場に流れるのであって、ユーザーが安全確実な銃を手に入れられるのである。 次いでパターンテストが行われ、40ヤード先のペーパーに向かって1発づつ発射する。パターンが片寄っておらず、 規定内の集弾率であることをカメラ映像を元にコンピューターが計算し、シリアル番号ごとにファイリングされていく。 さらに日本市場向けの高級銃の場合は、このパターンテストのペーパーが付けられて出荷されていくことになる。
 試射を無事終えた銃は徹底的にクリーニングされ、各部をもう一度検査して合格すれば梱包後、晴れて出荷となる。
ボルトアクションライフル銃の製造

光輝く銃身内の仕上げに驚き
ライフルの命は銃身にあると実感

 ライフル銃は高知県の内陸、梼原町にあるミロクグループの1社「梼原ミロク株式会社」で作られていた。 ここでブローニングのボルトアクションライフルが生まれ、世界中に巣だっているのである。
 ライフル銃の製作工程は、上下2連銃の散弾と比べると思いの外少ない。その大きな理由は、 銃が中折れ式でないソリッドモデルであること、さらに銃身が1本のため、銃身の組み立て工程が不要であること、 木部と機関部の合わせ目は樹脂を充填するタイプで無調整ですむ、 実用モデルのボルトアクションのため美術的価値を高めるための装飾もないことなどが挙げられる。
 ただしヨーロッパの一部では、実用本位のボルトアクション銃に飽きたらず、2連式ダブルライフルを好む人もいる。 その場合、基本的には上下2連の散弾銃を製作すると大きく変わらず、 ほぼ銃身組み立て工程を散弾銃身からライフル銃身に置き換えた感じで進められる。
 ライフル銃にとって命となる銃身の鋼材は、散弾銃と同様で銃に適した調質材が用いられる。 この丸棒にガンドリルで穴開け後、ホーニング処理、そしてさらに細かいダイヤモンド刃によるラッピングが施され、 その時点ですでに銃身内は磨かれたように鈍く輝いている。
 ライフル銃には銃身内に弾を回転させるためのライフリングという溝を掘るが、まずはライフリング加工時に金属を傷つけないよう、 潤滑性の樹脂皮膜を作る薬品に浸けられる。ミロクでは刃物と言うより材料の蘇生変形でライフルの溝を付けるボタン加工が採用されている。 ライフリングボタンで銃身にライフリングを刻み、再びバリを抑えるためのボタンを通して丹念に仕上げられているのだ。 この後銃身の外形が整えられ、薬室の切削とレシーバーにネジ込むための雄ネジが付けられる。 ここまでの工程を終えた銃身の内部をファイバースコープカメラを使って見せてもらったが、仕上げの美しさは見事なもので、 一般的な銃の銃身内に見られるザラザラ感のあるものとは全く別次元のものだった。 「この仕上げをしたからといって命中精度が格段と良くなるわけではないんですよ。 それでも見えないからといって手は抜きたくないですからね」と梼原ミロクの吉田社長は語ってくれた。 このあたりのこだわりこそ、ミロクの銃に対する姿勢なのだろう。
 その後NC加工されたレシーバーに銃身を取り付け、セーフティーやマガジンフォロアーそしてトリガーユニットを組み込むと、 銃床以外のライフルが完成する。
 ライフル銃の場合、後々の制度低下を極力嫌うため、樹脂製の銃床も増えてきている。 銃身と銃床の取付にはベディングと呼ばれる樹脂が採用されているが、 それは銃身部のベースを銃床部とベタ当たりすることで衝撃による狂いを防ぐためである。
 細部が調整され組み立てが終わると、ライフル銃も散弾銃同様、実射試験が行われて腔圧の検査と命中度が確認される。 命中度は50mの距離からうって3発の弾が1cm以内に当たることを合格圏として、1丁づつチェックが行われている。
 銃身にMIROKUの名が刻まれたブローニングライフルは、そのクォリティーの高さから、世界中で根強い人気を誇っているのだ。

ミロク製作所訪問を終えて
職人の匠の技に支えられる銃
ミロクはそこにこだわり続ける

 ミロクの銃製造工程を一巡し、あれほどのベテラン職人が手間を惜しまず、納得いくまで銃を仕上げている姿を見ると、
ミロク製の銃がかなりお値打ちであると実感できる。名銃といわれる条件は多々あるが、
ここで製作されている銃はキッチリと仕上がり、美しく、しかも命中精度の高い銃であると思える。
ミロクの銃は100万円を超える銃でなくても基本メカは高級銃同様で、シンプルながら美しさを持っているため名銃も射手あってのもの、
条件が揃ったら、後はオーナーが名銃を作り上げるだけである。


潟tォーバイフォーマガジン社 発行
スポーツガンガイドブック2004掲載記事より抜粋