オーラを発する銃

ただの鉄と木が、ベテラン職人の技によって命を吹き込まれて銃となる。気品に溢れ、すべての人の心を魅了するその物体は、 オーラすら発している。それはトラやヒョウなど大型ネコ族のオーラにも近い。ただそこにあるだけで、 これほど存在感のある物体が他にあるのだろうか。わずか数kgの魅力ある物体がどのように作られていくのか、 高知県にある株式会社ミロク製作所を訪れてみた。

MIROKU製作所訪問

銃身の精度を極めるため、幾度となくチェックが繰り返される
ガンドリルでの加工にこだわり精密さを追求した銃身

 銃身には、靭性などを向上するための材質調整がされた調質材が採用され、無垢の丸棒から加工されていく。 普及品メーカーは工程を大幅に省力化できるコールドハンマー工法を多様しているが、 ミロクでは性能と寿命重視の機械加工方式が採られている。平均的なハンターやシューター使用程度ならば、 コールドハンマー工法でも寿命を抑えることはないだろうが、ミロクはこだわっている。 銃身の内部加工はガンドリルという長い穴を精密に切削できる専用のドリルが使用される。 この機械もミロク製で、ミロクはこのガンドリルの世界でもトップメーカーである。
 ガンドリルで銃身の穴が開けられた後は、ホーニングで銃身内部が磨かれ、次工程の外周加工となる。 NC旋盤で薬室部分を厚く、先端に行くに従って細く設計されたテーパー状に削っていく。銃口近くはチョークといって内径を少し絞っているが、 最近は別体のチョークをネジ込むインナーチョーク式のものが多く、その部分だけ少し肉厚となる。
 次は銃身の曲がり検査である。光の反射加減で曲がり具合をチェックしていくのだが、 銃口を覗いてチェックすることでさえ熟練を要するこの作業、曲がりの修正ともなればさらに経験が必要になる。 もちろん最初からそれほど曲がっている訳でなく、一般のユーザーからみれば全て合格品のレベルなのである。
 曲がりがチェックを終えると、磁気によるチェック検査となる。金属に傷があれば、その部分に磁束が集中するのを利用した検査で、 目視などで見つけられない部分までチェックされている。
 銃身単体が完成すると、銃身組み立てに入る。ジャケットブロック銃身元部のヒンジやロッキンググラブの付いた部品も、 やはり調質材の無垢からコンピューター制御のCNCで削り出されるが、これに銃身2本を圧入する。 銃身の上銃身と下銃身は僅かに形状が違い、下銃身の方が微妙に細くなっている。また下銃身は上銃身に対し、並行ではなく少し上を向いており、 発射された弾が約40ヤード(約36m)先で規定の着弾を得られるようになっている。 その後、銃身の先がハンダで仮止めされるが、ここまでは銃身の長さを除いて全て共通の作業である。作業は生産計画に従って進められる。
 リブが仮組みされた銃身はジグで固定され、針金で縛り上げるのである。 この後上下銃身がそれぞれ真っ直ぐになり、よじれていないか銃身内部を覗き込みながら銃身間に数か所スペーサーを入れる。 その後上銃身と下銃身の隙間を隠すサイドリブを入れ、自動機械で銀ロウ付けされる。 再び曲がりや捻れのチェックがあり、同時に前端後端部分の加工が専用機械で行われる。前端はインナーチョークを入れる部分が加工される。 銃身にはチョークがネジ込まれ、面合わせ加工が行われる。高級銃はこの段階で選り抜きの良い物がピックアップされ、以降特別入念に仕上げられる。
 以上がバレルの組み立て工程であるが、銃身というのは思いの外薄い(最薄部で1mm以下)パイプで、さながら生き物のようである。 精密の工作機械と職人技の融合 こだわりのレシーバー造りが感じられる